2011年04月22日

今更聞けない原子力の基礎知識F 専門家が役立たずなのは、当たり前である


今回の福島の原発事故のニュースやその反応を眺めていると、意外に多いのが専門家の発言についての不満です。

「言っていることがよく分からない」
「安全かどうか、はっきり言って欲しい」
「専門馬鹿は使えない」etc.etc.

専門家の求められる役割に、自分の専門分野について素人に分かりやすく説明するというものがあります。その意味では、今回の事故で専門家がその役割を果たしているかどうかについて、疑問を持たれても仕方がないと思います。

今回は、原子力の基礎知識からは外れますが、その辺りをお話したいと思います。


唐突ですが、アインシュタインは偉大な科学者です。
人類の歴史上、有能な科学者を上げていくと上位に入ることは、間違いないでせう。

ところが、現代の科学者はアインシュタインが残した業績以上の結果を残しています。
では、そういう人達はアインシュタイン以上に有能なのでせうか?

その答えはイエスであり、ノーであると言えます。

1人の天才の仕事をするには、10人の秀才がいると言います。
秀才、10人がかりで、1人の天才を超えるのです。

具体的には仕事を分担し、1人1人が細かい範囲だけの研究をします。
つまり、限られた範囲に能力を集中し、部分的に天才を超えるのです。

では、その1人1人の能力を集中するためには、ルールが要ります。

それは、すべての物事を論じるためには、十分な科学的な根拠が必要だと言うことです。
その根拠、具体的には実験結果の数値が無いものは、議論の対象に値しないのです。
根拠が無いものは、未知なものとして語ることは避けられます。
というより、根拠がないものは、存在しないに等しいのです。

そして、その科学がベースである技術というものも、同じです。根拠が無いものは、出来ないのです。これが職人の世界になると、ベースが科学ではなく、個人の経験や腕になります。

専門家たちは、限られた範囲に能力を集中することで、素人にはできない仕事をしています。つまり、科学者や技術者や職人という業種は、極めて限られた範囲でしか、その能力を発揮できないのです。

自分の専門範囲、専門知識を1mmでも超えてしまうと、行動出来なくなるのです。
自分の専門範囲を超えて万能に振舞えるのは、天才だけです。
天才以外の人間は、すべて自分の能力の範囲内で仕事をするしかありません。

専門家が自分の専門範囲を超える発言や行動をとることは、決してありません。
それは、自己の限界を超えることであり、タブーなのです。

それを超える行動をするのは、極端な話、アイデンティの崩壊につながりかねません。

神父が聖書を破ることができますか?
僧侶に仏像を壊す事ができますか?
神主が神木を切れますか?

専門家に専門範囲外の言動に責任を求めることは、これに等しいのです。
ましてや、それに責任を負えなどと言ったとしたら。

言い換えると、専門家は専門範囲以外では、役立たずなのです。
専門家が専門馬鹿なのは、当たり前なのです。

ですが、そのことは専門家に対しては禁句です。それは事実だからです。
事実を他人に言われることほど、人は腹を立てることはありません。

私は禿で鬘です。そのことをカミングアウトしています。
だから、禿と言われようと、鬘と言われようと、全く気にしません。

ですが、頭が薄くなったことを気にしている人に、『よぉ!ハゲ!』と声をかけたら、どうなるでせう?

本気でぶん殴られても、仕方がないと思います。本人が認めたくない事実を、他人に言われることほど、人を傷つけるものは、ないのですから。

ともあれ、今回の事故で皆さんが不安に思うことの一つに、事故の影響がよく分からないということがあると思います。

その理由は、@専門家の言うことが分からないであり。A専門家ですらはっきり言わないであったりします。

実は、@はともかく、Aについては、専門家側からも言いたいことがあります。
今回の事故の影響は、専門家の専門範囲を超えていることが多すぎるんです(^^;。


放射性物質が、健康被害を与えるケースは大別して2つです。

(1)大量の放射性物質に近づき、大量の放射線を短期間に浴びる。
(2)少量の放射性物質を体内に取り込み、長期間微量の放射線を浴びる。

専門用語で使うなら、(1)が外部被曝、(2)が内部被曝と言うわけです。

(1)については、十分な答が得られでせう。過去の例から、どの位の放射線を浴びれば、どのような症状がでるということに対して、十分な知識の蓄積があるからです。

問題は、(2)のケースです。微量の放射線でも発癌性があることが分かっています。
しかし、発癌性があっても、必ずしも癌が出来るわけではないのです。

どうしてかと言うと、癌細胞というものは、毎日出来ているからです。そして、毎日退治されているのです。

癌細胞が生まれる理由は、幾らでもあります。
紫外線を浴びすぎたからかもしれません。
休憩に吸った煙草かもしれません。
お昼に食べた魚のオコゲかもしれません。
ともあれ、毎日癌細胞は生まれますが、その殆どは異常を感知した免疫細胞によって処理されてしまいます。

それらの癌細胞のうち、生き延びたものが10年、20年とかけて、ある一定数まで増えると、癌という病気として発見されるのです。

つまり、放射性物質を体内に取り込み、内部被曝によって細胞が癌化したといっても、それがある一定数まで増えることができるのか、誰にもわからないからです。

放射線の量が少なければ、癌細胞ができても、免疫細胞が片っ端から処理してしまいます。

放射線の量が多ければ、癌細胞以前に、細胞が壊死して、短期間で生命の危機に陥ります。
もっともこのケースは、大概は内部被曝以前に外部被曝で重篤なダメージを受ける例が殆どでせうから、検討しなくてもいいでせう。

となると、どのくらいの放射性物質を取り込めば、癌になるのでしょうか?

答は、誰も分からないです。

小児の甲状腺癌のような例外を除くと、放射性物質の内部被曝で、人間が癌になったかどうか立証できたデータがないのです。例えば、プルトニウムが発癌性があることは、動物実験で確認されています。しかし、プルトニウムで人体に癌が出来るかは、未だに証明されておりません。

癌はかかるのに10年、20年とかかる病気です。その間に、放射線以外の原因で癌になる可能性は、幾らでもあるのです。そして、放射線を浴びる前に癌が出来た可能性もあります。

それらのファクターを取り除いて、放射線の癌だと言い切る根拠となる数字は、何処にもありません。なぜなら、人間が放射性物質を取り込み内部被曝を受けるケースは、チェルノブイリのような例外を除いて殆どありません。そして、チェルノブイリの事故の際のソ連は、そういう患者さんをきちんと検査する人員も、設備も、足りなかったのです。

何を無責任なことをと思うかもしれません。しかし、人は何か大きな事件がないと、学習しないのです。例えば、わが国でも地震の対策が国家レベルで行われるようになったのは、関東大震災以降です。客船で安全対策が本格化したのは、タイタニック号の事故以降です。今回の福島の事故は、チェルノブイリ以後の最大の原発事故です。その辺りの調査と治療ができそうな初めてのケースなのです。

このため、現在計測された数字が安全かどうか、専門家にすら言い切れないケースが多いのです。

『何ベクレルの放射性ヨウ素で汚染された野菜を何グラム食べたら、健康被害が出ますか?』

この答は、誰にも分かりません。その根拠となる数字が無いからです。
となると、専門家が答えられるのは、曖昧な発言になります。

『はっきりした数字はいえません。ですが、すぐに健康被害が出るような事態は、可能性が低いと思います』という類の発言になってしまうのです。


……この答を聞いた方が、不安を感じるのは、当然です。


ですが、これが質問が変わってくると答えようがあります。
専門範囲内で、具体的なことを聞けばいいのです。

『50歳の日本人男性が、放射性ヨウ素を多量に含んだ食品を食べたら、癌になるでしょうか?』という質問なら、答えようがあります。

『その可能性は低いです。なぜなら、日本人はヨウ素を多量に含む海産物の摂取量が多いので、甲状腺などに既に蓄積されています。このため、多少の放射性ヨウ素を食べても新たに蓄積される量が少ないからです。また、癌になるのは、数十年かかるため、仮に放射性ヨウ素を食べて癌になっても、その立証は不可能でしょう』と答えられます。

『乳児のミルクに放射性ヨウ素が含まれていると危険ですか?』という質問なら『幼児はヨウ素の蓄積量が少ないです。また、細胞の活性が高いため、放射線から受けるダメージも大きいです。もっとも、細胞の活性が高いから回復力も高いのですが、浴びる線量が少ないに越したことはありません。このため、成人に比べて幼児の被曝には注意が必要です』と答えられます。

専門家は、自分の専門範囲のことであれば、どんなことでも答えられます。
逆に、専門範囲を超えてしまうと、役立たずになります。
ですが、自分が役立たずであることを認めることは、誰にもできません。

となると、専門範囲を1mmでも超えると、口が固くなり、曖昧な説明が増えるのです。
必然的に、説明が分かりにくくなります。

では、専門家にもっと分かりやすい説明をさせるには、どうすればいいでせう?
答は簡単です。専門家を使う人間が、責任を持てばいいのです。

例えば、『政府が安全宣言をした福島県産の野菜を食べて、万が一健康被害が出た場合、政府が責任を持って治療を行う』と宣言すればいいのです。『避難警告をした地区への出入りを禁止する。この宣言を守った者が被った損害は、政府が保証する』そう宣言すればいいのです。

専門家に限らず、仕事をする時には、仕事をする範囲と権限を決めてもらうとスムーズに行きます。この場合、専門家の仕事は、どこまでが安全かを政府に報告するまでです。

『このレベルまでの放射性物質の被曝では、健康に被害がでることはない。この値を超えると、責任が持てない』という範囲を言い、実際にその値になったら報告することです。
そこから先は、政府の仕事になります。それはそれで、色々と難しい問題があるでせうが、それは、専門外なのです。

極端な言い方をすれば、馬鹿とハサミは使いようと言うわけです。
専門家は、専門馬鹿なのだから、その機能をわきまえて、上の人間が覚悟を決めて、それ以外のものがスムーズに動けるように取り計らえばいいのです。

問題は、その責任をとる政府が、責任を取ろうとしないことでせう(^^;。

確かに上記の安全宣言をして、もし健康被害が出て訴訟沙汰になったらと考えると、安易に宣言できません。しかし、政治家というものは、そういうときに責任を取るのが仕事でせう。その覚悟が無い人が、政治家になることが、間違いなのです。

これを書き始めるとキリが無いので、この辺に止めておきます。

ともあれ、専門家が専門馬鹿であり、専門範囲以外のことで役立たずなのは、当たり前なのです。専門家の発言を聞く時は、その辺りを念頭において聞くよう心がけてください。

そういう意識でニュースを眺めると、今までと別の見え方が出来るはずです。


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posted by Jinguzi at 18:46| Comment(0) | TrackBack(0) | 雑談 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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