2014年08月25日

30年ぶりにブラック・ジャックを読んでみた。#02 なんて優しい日本医師連盟


以下の文章は、Kindle版ブラック・ジャック1巻のネタバレを含みます。
未読の方は、ご注意ください。

ブラック・ジャックが中2病のイタイ人としてみると、日本医師連盟が物凄く優しい組織に見えてきます。

人に強力な薬物を投与する。刃物で傷つける。医療行為では当たり前ですが、医療行為でないと犯罪です。この犯罪者と区別をするために、医療行為の高度な技術と倫理を持っている者に、免許を国が与えているのです。

つまり、ブラック・ジャックが、医師免許を持たないで医療行為を行った時点で、犯罪者なのです。医師法違反と傷害罪、場合によっては殺人罪で起訴されないとおかしいのです。そうしますと、我が国の制度では前面に出てくるのは、警察庁になります。次いで、認可の関係で厚生労働省が出てきます。連載時ではまた厚生省ですが。

我が国の公的制度が機能しているのであれば、ブラック・ジャックの診療所に逮捕状を持った警官と厚生省のお役人が来るのが当然なのです。

ところが、作中ではブラック・ジャックは日本医師連盟に呼び出され、医師免許を取るように勧告するにとどまっています。

どうしてこんなことが起こるかというと、答は一つしかありません。
日本医師連盟がブラック・ジャックを庇っているのです。


医師の世界は徒弟制度の世界です。無論中世のような厳密なギルドがあるわけではありませんが、上下左右の連帯が非常に強いです。作中ではほとんど描かれませんが、ブラック・ジャックにも同期や恩師、先輩後輩が存在しているのです。

ブラック・ジャックは、少なくとも外科手術の腕は卓越しています。
この手の腕がいい人は、若いうちから分かります。むしろ外科の名医は、30代ぐらいが技量のピークだったりします。その萌芽は、学生自体に現れたことでしょう。当然のことながら、ブラック・ジャックは学生時代から、様々な人に注目されていたのでしょう。

能力は有るのだが性格に問題がある変人。
これが同業者内でのブラック・ジャックの評価でしょう。

そして、職人の世界では、本人の性格よりその仕事で評価されます。現在の医師が職人かどうかは意見が分かれるでしょうが、少なくともブラック・ジャックの連載当時の外科医は職人的気風を色濃く保持していました。

そういう変人の彼が凄い治療をしているとなれば、周囲は暖かく見守るという選択をとってもおかしくありません。具体的には、逮捕を迫る警察や厚生省に対して、圧力をかけ捜査を止めていたと判断するしかありません。そして、本人が中2病を自覚し、改心してくれる日を待っていたのでしょう。

そういう視点で見ていくと、作中の冒頭で、ブラック・ジャックが日本医師連盟に呼び出されたのは、日本医師連盟が散々庇ったんだけどついに庇いきれなくなったので、最後の勧告をするためだったと判断するしかありません。

日本医師連盟は、なんと温情溢れる優しい組織ではないでしょうか。

ところが、ブラック・ジャックはこの勧告を断ります。

日本医師連盟と会長は、見事なくらい面子を潰されたわけです。
会長の怒り具合から見ると、ブラック・ジャックを一番庇っていたのは、会長だったかもしれません。あるいは、ブラック・ジャックは、会長の同門の後輩であってもおかしくありません。

同じ大学の卒業者を同窓と言うのに対し、同門は同じ医局の出身者という意味になります。徒弟制度が生きている世界では、同門の先輩後輩は、徒弟制度の兄弟弟子に相当します。普通に医師連盟会長になると、同門のトップである教授の経歴をお持ちでしょうから、ブラックジャックは、連盟会長の弟子か孫弟子あたりに相当してもおかしくありません。

というより、一人の無免許医の問題でわざわざ会長が出てくるのは、不自然です。普通なら所属する県の医師連盟の会長か、日本医師連盟でも法律関係の担当理事が出てくるのが順当でしょう。わざわざ日本の医師のトップが出てくるのなら、そう考えた方が辻褄があいます。

つまり、自分の弟子の為に、下げたくもない頭を警官やお役人に下げ、影に日向に庇ってきたのに、何時までたっても改心せず、庇いきれなくなって最後の情けで勧告したのに、すげなく断られたのです。

可愛さ余って憎さ百倍になっておかしくありません。

そう考えると、ポッケリーニ氏が高額の寄付金をくれるという誘惑を無視し、総理大臣に圧力をかけてブラック・ジャックの釈放を止めるなんて真似をしても不思議はありません。

今まで無理やり庇ってきたから、会長にもこれ以上庇えなくなっているのです。何せ、ブラック・ジャックは違法を行い、医師連盟の庇護を感謝もせず、逮捕されているのです。これ以上庇うと、自分の立場は勿論、医師連盟そのものに重大なダメージを与えかねません。

ところが手塚治虫は、これらの情景を全て日本医師連盟の会長の狭量ないし薄情として、描いているのです。日本医師連盟の会長は、組織のトップです。動くのは情ではなく、理でないといけません。理で動く人を情で見ると、薄情に見えます。ですが、それをどうこういうと組織は存在意義を無くします。

法律的にも、倫理的にも、日本医師連盟の会長は、悪いことを一つもしていないのです。強いてあげれば、ブラック・ジャックを庇いすぎたことでしょう。下手にブラック・ジャックを庇わず、逮捕されるのを見ているばよかったのです。ブラック・ジャックを庇いに庇った挙句、最愛の息子をポッケリーニ氏に逆恨みで銃撃された会長が、気の毒で仕方ありません。

私が、手塚治虫は、組織の論理を理解していないと判断した理由がここにあります。

個人の情と組織の論理は、全く異なります。そして、組織が大きくなればなるほど、その乖離は大きくなります。手塚治虫は、組織の論理に振り回される個人の情を描くことは得意でも、その逆は描くのは苦手なのでしょう。それに多少なりとも組織の論理を理解しているのなら、いくら少年漫画とはいえ厚生省と日本医師連盟の権限を混同するような描写は、不可能でしょう。

この作品は、逆に日本医師連盟の会長の視点から、ブラック・ジャックに振り回される姿とその懊悩を描いても、見ごたえがあるとおもいます。というか、誰か書いてくれないでしょうか。


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posted by Jinguzi at 12:58| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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