2015年04月17日

読書日記 30年ぶりにブラック・ジャックを読んでみた。#04 ブラック・ジャックが書かれた背景。


 間が空いてしまいまって、申し訳ありませんm(_ _)m。

 ブラック・ジャックは、手塚治虫の代表作扱いされていますが、実際は晩年の作品ないし、後期の代表作というべきです。

 手塚治虫は、数多くの作品を描き、虫プロを立ち上げ、アニメにも進出します。というより、日本のアニメーションの現在のスタイルは、手塚治虫が作り上げたと言っても過言ではないでしょう。虫プロが生んだ『鉄腕アトム』海外にも進出し、その名声をほしいままにしました。ですが、慶事は続きません。様々な要因から虫プロはつぶれ、手塚治虫は終わった人という評価を得ていました。その当時に連載開始したのがブラック・ジャックです。

 ブラック・ジャックを連載していた少年チャンピオンの編集者が、手塚治虫の死に水を取るつもりだったという趣旨の発言を後にしています。つまり、作品として期待されていたわけではないのです。だから逆に、今までにないフリーハンドが、手塚治虫に与えられていたのかもしれません。

 更に言うならば、当時の少年漫画で医療を描くなんてことは、題材としてもありえませんでした。当時は、元医学生で、医学博士号を持った手塚治虫しか描けなかったと言っても過言ではないでしょう。


 つまり、少年誌の題材として医療や社会問題を描くのは、小学生にイカの塩辛を肴に日本酒を飲めと進めるようなものだったわけです。

人間食べなれたものは、美味しく思えません。

少年を対象に、今までほとんど書かれていない医者の漫画なんか、面白くもないでしょう。医者のヒューマンドラマを描くにしても、普通に描いてはインパクトが薄いです。下手に書いたら道徳の教科書のような話にしかなりません。

どんなに美味しい料理でも、最初に口をつけてもらわないと始まらない。だから、スバイスが効いたカレーのように外連味のある設定にしなければいけません。

そういう様々な要素の中から、本来道徳的であるべき医師が、非道徳である。金に汚く、法律に違反する。その象徴として、医師免許を持たない医師、聖職者ではないダークヒーローとしての医師という設定が、生まれたのではないでしょうか。当時の社会的風潮では反社会的なものが讃えられるものであったことを、忘れてはいけません。

ただ、当時の少年漫画で、社会的に問題がある医師を主人公にする作品が当たるとは思えません。おそらく手塚治虫も担当編集者も、ブラック・ジャックがヒットするとはあまり期待していなかったのではないでしょうか。

勿論、それなりに成算はあったでしょうが、25巻も続いて、鉄腕アトムやリボンの騎士を超える手塚治虫の代表作として、誰もが名前を上げる作品になるとは、思わなかったでしょう。名作の誉れが高くても、鉄腕アトムもリボンの騎士も入手が困難であることを考えると、定期的に再販され、未だにスピンオフ作品が作られるブラック・ジャックの人気が如何に高いか知れるものです。

つまり、インパクト重視の短期連載の一発ネタとして作った設定が、『日本人なのに名前がブラック・ジャック』『高額な治療費を請求する無免許医』『腕はいいのだが人間的に問題がある』『顔に黒人の皮膚を移植されたツギハギで、白髪交じり』『何時も黒一色で暑くてもコートを脱がない』『人里はなれた崖の上の診療所』『幼女なのに精神年齢18歳の助手』『ライバルは安楽死専門の闇医者』『何かの謀略に巻き込まれ、母親が殺され、その復讐を誓う』だったのではないかと。あ、あと、『かっての恋人は、男装の医師』というのもありました。


……列記してみると、ライトノベルも裸足で逃げ出す中2病満載の設定です(^^;。


昭和だから許された設定というべきでしょう。この設定で平成の今に医療ドラマを書こうと思っても、編集者にボツを食らうに決まっています。おそらく連載開始当時、聖職者としてしか描けなかった医師とかけ離れた存在として、ダークヒーローとして描くことで、少年誌として受け入れやすくしたのでしょう。

というかこれだけ中2病要素満載だと、『無免許医』などという設定もネタの一つに過ぎなくなります。木を隠すなら森の中。中2病設定も一つだと目立つが、数多くあると違和感がなくなるわけです。

ただ、客観的に考えて、これらのネタ要素満載の作品が、大ヒットするとは思えません。
シリアスドラマとして設立すること自体が恐ろしいです。普通ならギャク漫画としか書けないでしょう。実際ブラック・ジャックの後発である医療漫画、スーパードクターKは、同じ掲載誌のギャク漫画に、パロディとしてスーパードクターYKKが登場しています。

逆を言うと、これだけ中2病要素満載でありながら、違和感なくヒューマンドラマに仕上げてしまう手塚治虫の力量が恐ろしいというべきでしょう。例えるなら、お子様ランチを美味○んぼの海○雄山が、ミス○ー味っ子の味皇様レベルのリアクションで絶賛するようなものでしょう。手塚治虫が漫画の神様と讃えられるのも当然でしょう。

ただ手塚治虫の力量を持ってしても、ヒューマンドラマとして仕立て上げるのが精一杯で、個々の設定は考えても、その背景まで深く考え切れなかったのではないかと。何より、ハードな週間連載です。ましてや大量のアイデアを消費する1話完結式です。深く考える時間が取れたかどうか。

だから、深く考えていない。詳しく話そうとすると、他に作った設定が破綻する。
だから、無免許医であることをストレートに扱った話がほとんどないと。

大体、ブラック・ジャックの無免許が問題になるのなら、戸籍すらあやふやなピノコが看護婦の真似事をすることだって、大問題なんです。ですが、ピノコの戸籍問題も、看護婦免許問題も、作中では全くといっていいほど描かれていません。

それどころか、医師が主人公の作品なのに、レギュラーに看護婦も薬剤師もおりません。レントゲン技師も麻酔科医すら出てきません。仮に出てきてもゲストキャラだけです。

このことが、手塚治虫がブラック・ジャックが無免許であることを深く考えていない傍証になると思います。主人公の医師免許の設定だって深く考えていないのに、マスコットキャラの設定なんか考えるわけがないです。それ以外の登場人物なんか、邪魔なだけです。

つまり、ブラック・ジャックは、医療を真面目に描く作品ではなく、医療を題材としてヒューマンドラマなのです。医療は主題ではなく、題材なので、その辺りが大雑把でも誰も困らないのです。


……真面目に突っ込む私が、只の馬鹿だという意見は、採用します(^^;。



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posted by Jinguzi at 12:07| Comment(4) | TrackBack(0) | 読書日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
作品が連載されていた世相や連載されていた背景にまで斬りこんで考察するとは、いやはや恐れ入りました。
どれもこれも「あ、言われてみれば!」と膝を打って納得する事ばかり。

本エントリーを読んでいて、空想科学読本シリーズの著者・柳田理科雄氏(←本名だそうです)が、ウルトラマンやマジンガーZを愛すると云いながら「ロケットパンチは役立たず!」「ウルトラマンが空を飛ぶと頭が吹っ飛ぶ!」と書いていたのを思い出してしまいました。

>……真面目に突っ込む私が、只の馬鹿だという意見は、採用します(^^;。

柳田氏も、初作の原稿をとある大学教授に読んでもらったそうですが、『キミね・・・こんな夢を壊すような研究をして、どうするの!?』と、非難されてしまったそうです。それでも刊行に漕ぎ着け、ヒットを飛ばしたのだから、柳田氏の着眼点は間違っていなかったと思います。

なので、専門家が専門分野に突っ込みを入れるのは、絶対に必要です。


…それを読む我々が、マジメな考察と受け取るか、はたまたお笑いネタと受け取るかは、お考えにならないようにお願いします(爆)。
Posted by 相良 宗介 at 2015年04月18日 19:10
こういう、「フィクションをリアルに則して考察する」というのは、遊び心がないと出来ないと思います。
何故なら、「フィクションである事は分かっている」事が前提だからです。
「この作品はこれこれここが違う! こんな事は有り得ない! こんな作品は馬鹿げている!!」とか、逆に「フィクションなんだから何でもありだ。一切考えるな!」というのは、単なるイチャモンであって、考察とは全く違う行為です。

Jinguzi 様の考察は、「ブラックジャック」を上手く分解し、整理した、非常に面白い文章だと思います。
私は連載当時の社会的な感覚はいまいち分かりませんが、「掘り下げない事で破綻を防ぐ」というのは的を射ているのかな、と感じます。

実は昔、私も似たような事を漏らした事がありまして。私の場合は「暴れん坊将軍」でしたが、アレを見てて、ふと

「他藩の重役はまだともかく、幕閣の重臣まで奸臣揃いの吉宗って、実は結構無能じゃね?」

といったら、友人には受けましたが親には「現実とドラマの区別もつかんのか!!」とぼろくそに罵られ、
内心「つまんねぇ奴だな」と呆れた記憶がありますw
Posted by 神有月 出雲 at 2015年04月30日 02:00
相良 宗介様

ご無沙汰しておりますm(_ _)m。レスありがとうございますm(_ _)m。

>どれもこれも「あ、言われてみれば!」と膝を打って納得する事ばかり。

ご高評いただき、ありがとうございます。
ちなみに、この話のブラック・ジャックのモデルについては、頭を抱えたくなる結果が待っています(^^;。

>本エントリーを読んでいて、空想科学読本シリーズの著者・柳田理科雄氏(←本名だ
>そうです)が、ウルトラマンやマジンガーZを愛すると云いながら「ロケットパンチ
>は役立たず!」「ウルトラマンが空を飛ぶと頭が吹っ飛ぶ!」と書いていたのを思い
>出してしまいました。

柳田理科雄氏に比肩されるのは光栄ですね(^o^)。
というより、ブラック・ジャックの世界に健康保険制度がないとを誰も突っ込んでいないことに気がついて、結構びっくりしました。


>なので、専門家が専門分野に突っ込みを入れるのは、絶対に必要です。

そういっていただけると嬉しく思います。

>…それを読む我々が、マジメな考察と受け取るか、はたまたお笑いネタと受け取るか
>は、お考えにならないようにお願いします(爆)。

基本はお笑いになるようにしております。
嘲笑うのではなく、『こんな阿呆なことを真面目にやるなんて』と笑われる方向で。

一応、ブラック・ジャックは後2本ほど予定しております。
お付き合いいただけると嬉しく思います。

Posted by Jinguzi at 2015年05月06日 22:00
神有月 出雲様

こんにちは。レス有難うございますm(_ _)m。

>何故なら、「フィクションである事は分かっている」事が前提だからです。

そういっていただけると嬉しく思いますm(_ _)m。

>私は連載当時の社会的な感覚はいまいち分かりませんが、「掘り下げない事で破綻を
>防ぐ」というのは的を射ているのかな、と感じます。

吉本芸人に『押したら駄目』というレベルの地雷ですよねぇ(^o^)。

>実は昔、私も似たような事を漏らした事がありまして。私の場合は「暴れん坊将軍」

アレは突っ込みどころ満載の時代劇でしたねぇ(^^;。

>「他藩の重役はまだともかく、幕閣の重臣まで奸臣揃いの吉宗って、実は結構無能じゃね?」

いや、史実の吉宗公は経済政策が民主党なみにアレで、最後は権力に執着して御三卿なんて生んでますから、あながち間違いではないのでは(^^;。

>といったら、友人には受けましたが親には「現実とドラマの区別もつかんのか!!」
>とぼろくそに罵られ、内心「つまんねぇ奴だな」と呆れた記憶がありますw

時代劇を真面目に考証して、あんなに事件が起きていると江戸の人口は0になるという結論を出した方がいたそうです。

英国人なみにエスプリを効かせないと、この手の話は難しいですねぇ。
Posted by Jinguzi at 2015年05月06日 22:23
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