2015年05月06日

読書日記 30年ぶりにブラック・ジャックを読んでみた。#05 ブラック・ジャックは医師免許を持っている。


ともあれ、ブラック・ジャックは、Kindle版の第1話で逮捕されたにも関わらず、その後も無免許医として活動を続けています。

では、どうしてそんな真似が出来たのでしょうか?

答はとっても簡単です。ブラック・ジャックは医師免許を取得したからです。
医師免許があるので、医師法違反も傷害罪も殺人罪も適用されません。

厳密には、医師免許取得以前の手術は、医師法違反も傷害罪も殺人罪も起訴されなければならないのですが、作品世界の日本医師連盟は絶大な権力を有しています。その辺りをもみ消すのは簡単でしょう。

第1巻の第1話『報復』の最後で、日本医師連盟の会長は、息子の手術をして欲しいが為に、ブラック・ジャックに医師免許証を差し出します。しかし、ブラック・ジャックはその免許証を破り捨て、日本医師連盟会長が涙にくれるのがラストシーンです。

ここで注目すべきはブラック・ジャックが破ったのは、医師免許証に過ぎないのです。
医師免許証は、医師免許を取得したことを証明する書類に過ぎません。だから免許証を破ろうと免許そのものは有効です。役所の帳簿にキチンと記録されています。必要な手続きをして、規定の料金を払い、厚生省に免許証を再発行して貰えればいいのです。それが面倒なら、破いた医師免許証をセロテープで修復して使ってもいいわけです。

自動車免許証を家に忘れて検問に引っかかり免許不携帯で減点になっても、無免許で捕まることはないというわけです。もっとも医師免許証はB3大の表彰状サイズなので、携帯することは不可能ですが。

手段の是非はともあれ、ブラック・ジャックに医師免許が発行されているのです。医師連盟が発行したのか、医師連盟が厚生省に圧力をかけて発行したのかは分かりませんが、発行された免許は効力を持っています。本人が失効の申請をするか、何らかの重度の法律違反でもしないと、医師免許が失効されることはありません。

では、何ゆえブラック・ジャックは、その後も無免許医を名乗っているのでしょう。

それは、私が第1回に書いたこの話の印象に答があります。

@手塚治虫は、組織の論理を理解していない。
A日本医師連盟はとても優しい組織である。
B手塚治虫はブラックジャックが無免許医であることを多分深く考えていない。

手塚治虫は、組織の論理を理解していないので、発行された免許の意味や役所の免許の扱いというものが描けないのです。だから、免許証を破っても免許そのものは失効しないということを理解していません。

日本医師連盟はとても優しい組織なので、傘下の医師を守るのです。医師免許を手にした以上、ブラック・ジャックは、連盟の庇護下にあります。

無論そうなるためには、誰かが責任を取らねばいけないでしょう。具体的には、医師連盟の会長が引責辞任したに違いありません。また、連盟に居るには会費などを払わねばなりませんが、おそらく会長が治療報酬の一部を当てたに違いありません。

そして、ブラック・ジャックがこの後も無免許医として活動しているかと言うと、手塚治虫は、ブラック・ジャックが無免許医である理由を深く考えていないからです。

無免許医であることを深く考えていないから、政治取引で免許を取ったことも深く考えていない。だから、その辺りの描写も一切ない。

なんでそういう事態になったかというと、物語のラストシーンの後で、ブラック・ジャックが連盟会長の息子の手術をしたからだとしか思えないからです。

状況を整理してみます。

(1)ブラック・ジャックが釈放されるためには、連盟会長の許可が必要である。

(2)連盟会長は、息子の手術と引き換えに、ブラック・ジャックに医師免許を発行する。

(3)ブラック・ジャックは、発行された免許証を破り捨てる。

(4)この事件の後でもブラック・ジャックは無免許医として活動している。

ブラック・ジャックが会長の息子の治療を拒否したのなら、起訴されなければなりません。
ですが、その後の話でもそういうことはありません。となると、ブラック・ジャックは息子の手術をしたに違いありません。となると、免許問題はどうなったのでしょうか?

ブラック・ジャックが釈放され、会長の息子を手術するためには、医師免許が必要です。
しかし、ブラック・ジャックは、この事件の後も無免許医として振舞っています。
明白に矛盾します。

この矛盾を解き明かすためには、日本医師連盟の会長は、ブラック・ジャックに無免許医と自覚したまま、釈放し、息子の手術をさせたに違いありません。

つまり、こういう図式です。

【日本医師連盟】ブラック・ジャックに医師免許を発行したから、あいつは医者。俺らの仲間。だから、無罪。会長の息子の手術をしてもいい。

【ブラック・ジャック】医師免許証を破り捨てたから、俺は無免許。そのことを認めるなら、会長の息子の手術をしてやる。

『医師免許証を破り捨てても、医師免許そのものは失効しない』という事実を隠蔽することで、両者にとって都合のいい解釈が成り立つ、玉虫色の結果を出したわけです。

このお話の後、『ブラック・ジャックは医師免許を持っているが、免許証は持っていない』という頓智のような状態であるというわけです。

こうすることで、医師免許を持っているのだけど、本人は自覚していないから無免許医という、ありえない設定を可能にしているのです。


……つまり、ブラック・ジャックは『医師免許を持っているのだけど、本人は無免許医だと自覚しているイタイ人』ということになります(^^;。


こう考えると後の巻で、ブラック・ジャックに医師免許を取得できそうな話が、ことごとく潰れてしまうのも説明がつきます。既に持っている以上、発行は不可能に決まっています。そして、ブラック・ジャックが無免許医で居ることを望んだため、医師免許を取得したこと自体が秘匿され、本人にすらそのことを伝えなかったのでしょう。いや、本人にだけは、知らせてはいけなかったのでしょう。おそらくこれは、医師連盟会長の意趣返しでしょう。


……息子を治療して貰えなかったポッケリーニ氏が、とってもお気の毒です(^^;。


無免許医云々は、真面目に活動しているのなら、確定申告の時点で全部分かるんですが。いや、無免許医が真面目に確定申告しているかというと、それはナンセンスな疑問ですが。そうなると、ブラック・ジャックの設定の一つに、税金未納ないし脱税者という社会人失格の設定が一つ増えるだけですが。

改めて言うと、ブラック・ジャックは中2病満載の設定です。

『日本人なのに名前がブラック・ジャック』
『高額な治療費を請求する無免許医』
『腕はいいのだが人間的に問題がある』
『顔に黒人の皮膚を移植されたツギハギで、白髪交じり』
『何時も黒一色で暑くてもコートを脱がない』
『人里はなれた崖の上の診療所』
『幼女なのに精神年齢18歳の助手』
『ライバルは安楽死専門の闇医者』
『何かの謀略に巻き込まれ、母親が殺され、その復讐を誓う』
『かっての恋人は、男装の医師』

これだけ怪しい設定があれば、『医師免許を持っているのだけど、本人は無免許医だと自覚しているイタイ人』という設定が加わっても、特に問題がないのではないかと。ましてや、作者である手塚治虫がそのことに気がついていないのであれば、誰かがあげつらうのは、無粋というものでしょう。


……真面目に突っ込む私が、只の馬鹿だという意見は、正解と認定します(^^;。


ただ、再編集されたKindle版ブラック・ジャックの第1話が、この『報復』であったことが些か気になります。再編集版を編集した編集者は、ブラック・ジャックは『医師免許を持っているのだけど、本人は無免許医だと自覚しているイタイ人』である可能性に気がついていたのではないかと。

ある程度知識があり、深読みする人がいたら、ブラック・ジャックが実は医師免許を持っている可能性を類推できます。そうすると、これ以後の話で、ブラック・ジャックが無免許医である非道徳性、犯罪性を薄めることができます。連載当時は必要だったダークヒーロとしての立場を薄くし、ヒューマンドラマとして受け入れやすくするために、あえてこの話を第1話に持ってきたと考えるのは、穿ちすぎでしょうか。

ともあれ、これからブラック・ジャックを読む人は、ブラック・ジャックは『医師免許を持っているのだけど、本人は無免許医だと自覚しているイタイ人』と思って読んで貰えると、嬉しく思います。


……ブラック・ジャックがシリアスドラマに読めなくなっても、責任は負いかねます(^^;。



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posted by Jinguzi at 20:53| Comment(2) | TrackBack(0) | 読書日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
>そうなると、ブラック・ジャックの設定の一つに、
>税金未納ないし脱税者という社会人失格の設定が一つ増えるだけですが。

いえ、何話か忘れましたが、BJがしょっ引かれた時、脱税の容疑を問われている事に言及されていますw

あと、BJは法外な診療報酬の殆どを沖縄などの離島を買う事に費やしているという設定があります。なので本来なら固定資産税を払う必要があり、脱税はイコール土地没収、つまりやっている事が無意味になるわけですが、その辺にも触れられていませんね。それともその辺の税金は払ってるのだろーか。

……まあ、当時の読者層であるティーンがこんなことにまで気を回してたらその方が怖いですが(爆)。

それと、厨二病設定についていくつか突っ込みを

>『幼女なのに精神年齢18歳の助手』

ピノコは「自称18歳」なだけで、精神的にも幼女ですね。……18歳教?(激違

>『何かの謀略に巻き込まれ、母親が殺され、その復讐を誓う』

BJの母親に関しては、原因は杜撰極まるヒューマンエラー(まあ、半分方犯罪だけど)の積み重ねとはいえ、状況自体は「事故」のはずです。
……人二人ふっ飛ばされるような事故で誰も責任とらなかったってのも凄いけど。

……しかし、この厨二病設定を読んでて何かを思い出すな、と首を傾げていたら、「ギャラリーフェイク」に共通する部分があるんだ。
あれも、藤田が裏社会と関わる人間である事がかなり大っぴらになっている(作中に出てくる人は一般人でも大抵その事を知っている)のに、店はそこそこ繁盛してたり、サラの身分(日本に滞在する資格という意味で)が不明瞭だったりと、突っ込み所の多い話です。

まあ、これも以前jinguji様が言ったような「掘り下げない事で破綻を防ぐ」書き方の賜物ですね。
何打かんだいって手塚治虫は偉大だと思いますw
Posted by 神有月 出雲 at 2015年07月05日 11:58
神有月 出雲様

返事が遅くなって申し訳ありません。

>いえ、何話か忘れましたが、BJがしょっ引かれた時、脱税の容疑を問われている事に言及されていますw

そういえば、そんな話もありましたねぇ。闇医者なのに確定申告してるんですねぇ。
年度末にブラック・ジャックも、税理士に小言を言われているのでしょうか。

>あと、BJは法外な診療報酬の殆どを沖縄などの離島を買う事に費やしているという設定があります。

無人島は資産価値がないから、固定資産税は多寡がしれていると思います。
今ならNPO法人立ち上げて、自然保護団体を名乗る方が節税がてきるでしょう。

……ドンドン、闇医者のイメージから外れていくなぁ。

>……まあ、当時の読者層であるティーンがこんなことにまで気を回してたらその方が怖いですが(爆)。

手塚治虫は、てんかん患者団体から訴えられいますから、税務署の読者から小言を言われるぐらいのことはあっても不思議がないような。

>ピノコは「自称18歳」なだけで、精神的にも幼女ですね。……18歳教?(激違

永遠の18歳ですね(^o^)。

>BJの母親に関しては、原因は杜撰極まるヒューマンエラー(まあ、半分方犯罪だけど)の積み重ねとはいえ、状況自体は「事故」のはずです。

事故当時に父親は愛人ところに入り浸って、息子ともども放置でしたねぇ。
裁判とか慰謝料とか、どうなったんだろう。それ以前に、ブラック・ジャックの過去に法律関係者が誰も出てこないのは、どう考えてもおかしいですよねぇ。

>……人二人ふっ飛ばされるような事故で誰も責任とらなかったってのも凄いけど。

それなので、謀略としか思えないんですよねぇ(^^;。
父親はよっぽど後ろ暗いことをしていたに違いないと。

>……しかし、この厨二病設定を読んでて何かを思い出すな、と首を傾げていたら、「ギャラリーフェイク」に共通する部分があるんだ。

おぉ、言われてみれば確かに。
フィクション故に成り立つ設定だと言ってしまえば、それまでなんでしょうが。

……それを言うとこういう突っ込み自体が成り立ちませんが(^^;。

>何打かんだいって手塚治虫は偉大だと思いますw

これについては、まことに同感です(^o^)。

ただ、時代が進みすぎてブラック・ジャックのような設定の話はもう描けないでしょう。
それは少し残念です。
Posted by Jinguzi at 2015年11月19日 22:49
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